風花 - 和書 - 子供と読む絵本の旅
川上 弘美

集英社

グループ:Book /ランキング:5476
価格:¥ 1,470
発売日:2008-04-02 /通常24時間以内に発送

カスタマーレビュー
おすすめ度:
長い時間を生きさせてくれる作品  (2009-01-04)
 川上弘美の『風花』は一読して一種の物足りなさを感じさせる小説である。作者の技巧が足りないというわけではない。主人公ののゆりが自分のことを考えていくそのプロセスがどうにももどかしいのである。その意味では、作者は小説を読んだだけの、あるいはそれ以上の時間を読者に感じさせたと言える。それはたしかにすごいことだ。川上弘美はやはり侮れない。

 小説はのゆりが夫の浮気を契機に、それまでの自分たちの関係のあまりの凡庸な日常性に気が付き、自分が夫を本当に好きなのか、あるいは離婚したいのか、と漠然と思いを巡らすことから始まる。のゆりは結局、別居という形をとるのだが、夫の卓哉の方は、それを機会によりを戻そうと彼女を食事に誘ったりする。別れるのか、別れないのか。最後のシーンでは、福島への旅行から帰ってきた二人が、微妙な関係を生きることを強いられる。

 別れよう、きちんと。
 のゆりは言おうとした。今言わなければ、またぐずぐずと先延ばしにしてしまいそうな気がした。
「別れよう、わたしたち」
 のゆりは、口に出して言った。
 卓哉は青ざめていた。それから、はは、と笑った。ちっとも笑い声に聞こえなかったけれど、口の両端が持ち上げられていた。眉が動いていないのが、不自然だった。
 別れたくないんだ。
 卓哉が言ったような気がした。気がしただけかもしれなかった。卓哉は立っていた。のゆりの目の前に。口の端を持ち上げたまま。(p. 282-283)

のゆりの自己理解も卓哉という他者への理解も本当にゆっくりと進む。読者はその時間を共有して生きざるを得ない。結婚と離婚のあわいを微妙な旋律が流れていく。


実際はこうなのかも  (2008-10-30)
夫に愛人がいることが判明しても、なかなか決断が出せずにゆるゆると日常を送る「のゆり」。相手の女性は一人ではなく、無言電話や妊娠騒動など、あらゆる不幸が降りかかってくるのだけれど、のゆりは取り乱すことなくそれでも生きている。
こんな友人がいたら、「あんた、なにぐずぐずしてんの!早いとこ別れちゃいな!!」と助言するだろうことは確実ですが、意外と夫婦という契りを一旦結んでしまった二人には、単なる「好き」「嫌い」では推し量れない二人だけが持つ世界があって、そうそう簡単に結論は出せないんだろうな〜とも思いました。この本は白黒はっきりさせたい人には不向きでしょう。
川上ばりの細かな描写も健在で、何気ない言い回しに涙ぐむことも。


湘南ダディは読みました。  (2008-10-02)
恋愛結婚をした「のゆり」は夫、卓哉の不倫を知り、悶々とした気持ちのまま幼い頃から気心のしれた叔父と温泉旅行にでかけ、湯治場の従業員に不倫カップルと勘違いされるという最初の章の「風花」にはじまり、季節の移ろいの中でのゆりと卓哉の顛末が言葉静かに語られる作品です。「風花」はこれだけで独立した短編として味わいがある章ですが、巻末の初出をみると「風花」の発表から、幼い頃父親の不倫に悩む母親と雨中の山をさ迷い歩いた思い出「夏の雨」にいたるまでには約2年がたっていますので、作者はひょっとすると最初は短編「風花」で終えるつもりだったのかもしれません。 
しかし宿の湯殿でのゆりが見た落書「死んだらおしまい」を、おそらく作者はのゆりに再生のテーマとして与えたかったのでその後の章を書きつないだのではないかと思います。
卓哉から別れてくれと言われながらも転勤先までついていき、卓哉の二人目の不倫の相手を知り、別居して自活するようになって、言うべきときに適切な言葉がでない「のゆり」はやがて次第に自らの殻をやぶり、縒りをもどそうとしてきた卓哉に決然として「おなか、すいた」といえる女になっていきます。
主人公の「のゆり」については、これほど優柔不断な若い女性っているのかしらとか、こんな妻をもったら亭主もいろいろ浮気をするだろうなという読者もいるでしょうし、愛とか恋とかは当事者二人だけのあやふやな概念的な約束ごとだからすぐに熱くなったり冷えたりもするけれど、夫婦とか結婚となるとあえて選択した社会的な制度なのでそうは簡単に棄てきれないのはわかるという読者もいるでしょう。
帯にあるように恋愛小説なのかは別として、若い女性の自立を声高にではなく描いた作品であることは間違いありません。


期待していただけに…  (2008-08-15)
主人公の決断力のなさには最後までイライラさせられっぱなし。
夫に浮気されながらも年の近い叔父と旅行したり年下の大学生と恋人まがいの付き合いをしたり。こんなにふらふらしてていいのか?
友達にこんな女性がいたら絶対に付き合いは疎遠になるな、と最後まで不愉快な存在の主人公でした。
かなり期待して購入しただけにあまりのつまらなさに非常に残念でなりません。



きっと現実ってこんな風  (2008-08-05)
夫の浮気が発覚したというのに、なぜかゆらゆらとのんびり生きている主人公の「のゆり」。
「絶対別れたくない」なんて言ってるわりに、彼女が夫をそれほど深く愛しているようには感じない。
年の近い叔父と仲が良く、二人だけで温泉旅行に行ったり、
年下の男の子と親しくなって、お茶したりホテルに誘われたり、
女性から見たら「なんなの〜!この女!!」みたいな主人公。

読者はこの事態に同時に普段通りの生活を送るのゆりにイライラするでしょう。
でも、現実ってこんなものなのかも・・・。
どうすることもできなくて、前にも後ろにも進めなくて、
ただ「うまくいってた頃のように戻りたい」と思いながら時間だけが過ぎていく。
別れって劇的じゃなく、こんなふうに静かに受け入れていくものなのかなぁ。

追えば逃げられ、追われると逃げる。
そんな二人だったけど、最後ののゆりの選択はたくましい。
それまでは同性としてのゆりが嫌いだったけど、最後には見直してしまいました。