玻璃の天 - 和書 - 子供と読む絵本の旅
北村 薫

文藝春秋

グループ:Book /ランキング:75413
価格:¥ 1,250
発売日:2007-04 /通常24時間以内に発送

カスタマーレビュー
おすすめ度:
楽しめる1冊♪  (2008-12-17)
ステンドグラスを突き破り転落死した男には、人の恨みを買うような何かが
あったのか?ステンドグラスに開いた穴の謎に迫る表題作「玻璃の天」を
含む3編を収録。

時代は昭和初期。日常の中で起きるさまざまなトラブルや謎に迫るのは、
大きな屋敷に住む令嬢と女性運転手の二人だ。
3編の中で特に印象的だったのは「玻璃の天」だった。ステンドグラスに
開けられた穴に込められたある人物の憎しみ・・・。それを見破った女性
運転手の別宮だったが、その結果彼女自身のあまり触れられたくない過去
までも暴かれることになってしまう。この話の展開は面白い。古きよき
昭和初期の時代描写も、とても興味深く読んだ。ただ、この作品は「街の灯」の
続編なので、そちらから先に読んだほうが話のつながりが見えてよかったので
はないかと思った。読む順番を間違ってしまった・・・。これから読む人には、
順番どおりに読むことをオススメしたい。

青春の光と影  (2008-06-14)
「街の灯」の続編にして、ベッキーさんと英子シリーズ第2弾。
英子はいよいよ女子学習院の中期4年を修了し、後期3年の課程に進む
(前期4年、中期4年だから今でいう中3から高1ぐらい)。

当時のおひいさま(お嬢様)方は社交界デビューの年頃とて、英子の周辺でも、
好いたはれただの、お見合いだの、駆け落ちだのといった話が聞こえてくる。
そんな日常において出来する事件の謎をめぐる英子とベッキーの活躍が描かれている。

残念なことに、本作でベッキーさんの素性が明かされてしまう。
個人的には、この謎はできるだけ引っ張って欲しかったし、明かされた正体も意外に
平凡というか、衝撃度は小さかった。まあ、まだ謎は少々残されてはいるが…。

ただ、描かれている時代がこの先いよいよ暗い軍国主義の時代へと突入していくことを
考え合わせると、作者にとっては続編を書き続けていくことがかなり厳しいのではと
心配してしまう。本シリーズのファンとしては、第3弾あたりで終了とならないことを
祈っているのだが。

個人的には、昭和初期という時代に興味を惹かれるものがある。
大正デモクラシー後、戦前においてもっともリベラルな空気を纏い、昭和文化が花開き、
モボ、モガが闊歩した時代。

北村薫はかなり緻密に時代考証を重ね、この時代の雰囲気をかなり忠実に再現している(と思う)。
例えば、当時女子学習院のあった青山や、現在衆・参両議長公邸のある永田町の
旧閑院宮邸あたりの描写、銀座和光の時計塔の竣工当時の話等々実に興味深い。

それと例によって博覧強記を発揮し、当時の詩歌、書画、美術、思想に至るまで巧みに、
しかも嫌味なくストーリーに取り入れていくところなど、感心しきり。

そして、北村作品に共通する登場人物たちの繊細な思考と、思いやりに満ちた解決案の提示。

「日常の謎」が北村作品のキャッチフレーズとなっているが、その(主要)登場人物たちは、
非現実的と思えるほど、優しく、繊細で純粋なことが多い。

このシリーズでは、時代設定が今から70年以上前なだけに、そんな純粋な人物像にも
一層違和感なく溶け込めるのかも知れない。

時代考証の質が高い!  (2008-04-24)
『街の灯』に続く本作は氏の「推理」小説としては、
円紫シリーズなどと比べその輝きが少ないことを認めざるは得ないだろう。
しかし、会話がやや現代風に改められてはいるものの
これだけの時代考証を行い、それを作品の中に
反映させたエネルギーは高く評価すべきだ。

十五年戦争の前夜、最も華開いた昭和の消費文化。
数々の作品に採り上げられた記号といえども
イメージだけではなく、生活感を持って描写し得た作品は
それほど多くはない。その直後に設定を置いた本作は
その中でも高い質を持ったものに相違ない。

自由に外出できないお嬢様を探偵役に据えた逆転の発想が、
軍靴の足音が不穏な時代を描写するに相応しい。
続編が強烈に待たれる。

格調高い時代ロマン  (2008-01-27)
舞台は昭和初期で、現代の作品ながら、当時の雰囲気が、克明に描かれている。
巻末の参考文献の多さからみても、多くの資料を駆使して、当時が再現されている様だ。
特に、巻頭に配されている「幻の橋」は、明治大正昭和初期の風俗が、凝縮されて描かれている様な作品だ。
そして、巻末に配されている「玻璃の天」には、少々不穏な雰囲気も感じられ、戦争に突き進んでいる事が分かる。

こういった雰囲気の中で、それぞれの作品はミステリーでもある。
その内容は、人探しから、殺人まで、色々だ。

これらの作品は、内外の文学、音楽、美術といった、芸術的要素があるミステリーであるのが特徴だ。
特に、国文学や海外の文学に題材を求め、それらが自然に物語に溶け込んでいる。
こういった意味で、大変格調高い作品に仕上がっている。

この格調の高さにロマンを感じる。
本書を読み始めると、途中で本を置くのは無理だ。


昭和初期の空気を確かに感じる作品  (2007-11-17)
戦争の影が色濃くなってきている日本で、凛としたたたずまいで
国の行く末を見つめ、自分の信念を持ち続けるふたりの女性の姿が
大変印象的な作品。ジャンルを問われると「推理小説」だが、
推理小説が苦手な人にもぜひ勧めたい作品。

作者は、昭和8年の東京を舞台に選び、ヒロイン達に
日本が選んだ道をしっかりと見届けさせている。
自分の信念と向き合い、言葉にすることで、国が進んでいっているであろう道と、
自分が進みたい道との違いを真摯に考え抜くヒロイン。
彼女のまっすぐな瞳と思慮深い表情がまぶしい。

三篇通してのテーマは「公」と「私」の関係。
あの時代。急速に何かが変わっていったあの時代も、
きっと、みんなは自分の幸せだけではなく、自分達の子供達の幸せを願っていた。
自分の幸せよりも国の将来を優先させた志の高い人もたくさんいた。
それなのに、よくわからない何かに巻き込まれてしまったあの時代。
私には結局、「公」と「私」の関係はよくわからない。
あの時代を俯瞰的に捉えることもできないでいる。
しかし、英子は時代に対する違和感を放置しない。
どこに違和感があるのかを見据え続け、考え続ける。
その強さは、北村作品のヒロインが共通で持っている魅力でもある。