溺レる (文春文庫) - 和書 - 子供と読む絵本の旅
川上 弘美

文藝春秋

グループ:Book /ランキング:62190
価格:¥ 420
発売日:2002-09 /通常24時間以内に発送

カスタマーレビュー
おすすめ度:
カケオチ短編集(毒入り)  (2008-07-02)
基本的にダメ女がダメ男と逃げ続ける短編集。

○時間感覚があいまい
○方向感覚・距離感覚も狂っている
○舞台背景がさだかでない
○非現実的な状況や無意味な反復など、どこか錯視を起こさせる道具立て
○然るべきところに然るべき文字を用いないフシゼンさ
○幼児退行ともうけとれる不可解な行動
○男女二人以外の存在は基本的にオボロゲ

この現実でありながら現実でないような遊離感覚を味わわせる文体が売り物であり、クセモノでもありますが。ま、ひとことで言ってラリっています。麻薬入りですね、この小説は。中毒しやすい人は気をつけてください。

個人的に麻薬入りは嫌いじゃないけど……私はもっと別のがいいな、なんかこの本、コワいもの。

溺レた。  (2008-04-25)
「あんなこと」や「こんなこと」を知ってるオトナの本。

どこかダメな人たちがいっぱい出てくるところも素敵だ。

「亀が鳴く」でやられた。泣いた。

私にとってはじめての川上本。こんなすごい作家を知らなかったなんて。損したぁ!

とらえがたく、奥深い一冊  (2007-10-18)

 ああ、これはとてもいい。
 同じ川上弘美さんが書かれた『センセイの鞄』を読んできれいな文章をかくひとだ、と思っていたのだけれど、やっぱりいい。

 短編集。
 あまり作中では意識されないけれど、基本的には40歳前後の女性が主人公である。どれもいっぷう変わった男が出てきて、女のほうもいっぷう変わっているものだから、やっぱり一方ならぬ物語になる。
 でも物語というよりは、ものがたり、とひらがなで書いたほうが似合うような、そんな、ものがたりのひらひらとした感覚が好きで、だから、この作品にやられてしまった。

 いくつかの作品は、夏目漱石や、坂口安吾を意識して書いているような印象も受ける。『百年』は漱石の『夢十夜』の雰囲気を髣髴とさせるし、『神虫』には安吾の『白痴』のような、透徹としていながら割り切れていない、そんな空気が漂っている。

 面白い作品です。


溺レることも日常  (2007-08-20)
いわゆる「いやらしいこと」を高尚な書き方で表現する作家はあまたいるが、この作家はそうでない。「いやらしいこと」は完全な日常の一部なのだとして書いている。どの一編に登場する恋人たちも、たとえば話す、食事をする、歩くといった当たり前の行為に対する視線と同等のものを性行為に対して抱いているような気がする。
普通の恋愛小説には到底使われないであろう行為――放尿や鼻毛を切る、など――を話中に織り交ぜつつも、淡々と交わされる性の営みをこれほど美しく描けるとは。こんな書き方はどんな人も真似はできない。「日常的」ということに対して相当発達した考えを持つ著者であるからできる技である。

うめー  (2007-01-25)
 この人の言葉選びのセンスと漢字の開き具合、点の打ち方、あいまってきれいな文章です。
 物語と恋愛に関する話です。いちばん印象に残ったのが「さやさや」と「可哀相」でした。さやさやはラストシーンがすばらいです。
 可哀相は、もうなんともいえません。これは、あくまで物語的であろうとする物語です。恋愛に物語なんていらない、劇的な物語なんかいられなくとも一緒にいられるのが愛なんじゃないか、と、この小説を読んで考えさせられます。しかし、逆にこの短編の人物は(全部じゃないけれど)物語的であろうとする。陳腐な逃避行をしたりします。
 物語的であるがゆえにうまくいかない恋愛と、でもその悲劇をしっとりと美しい言葉でつつみこんだその背反が、この小説のいちばんの長所なのではないでしょうか。
 そして、おそらくこの書き方は短編小説でないとできないのではないでしょうか。この文章で長編を書くのは、並大抵の技術では不可能です。是非、彼女の長編小説を次は読んでみたいと思います。