龍宮 (文春文庫) - 和書 - 子供と読む絵本の旅
川上 弘美

文藝春秋

グループ:Book /ランキング:41215
価格:¥ 460
発売日:2005-09-02 /通常24時間以内に発送

カスタマーレビュー
おすすめ度:
湿った空気の夜に読みたい。  (2008-07-12)
独特の、湿り気のある、静謐な、あやしさ。
ナマモノのもつ気持ち悪さと気持ち良さ。
おかしみ。

こんなふうに言葉を重ねてみても、
心が感じている良さを表し切れたとは到底思えませんが。
川上さんの繰る言葉は苦い甘い毒みたいに血管を巡って
いつも私をくらくらさせます。

この本に収められた短編は全て「異形交流譚」で、
川上さんの文章にあまりにも嵌り過ぎというかなんというか・・・
彼女の作品群の中でもかなり"極端"であると思います。
人によっては受け付けなかったりするのかも知れません。

でも、とても好きです。

言葉の魔術に酔い、リアリティの揺らぎに身を任せてください…  (2006-06-09)
人間と人間ではない生き物の情交を描いた八つの短編集。

全編に人間ではない生き物が登場して、しかも彼等が人間と普通に会話しているのに違和感がない世界。それは人間側の日常描写やセリフ回しがあくまでというか断固として現実的に進められるから可能だったのであろう。なので、そこに現れる世界は理解できないものではなく、むしろ大いに理解可能なものである。だが、その変に現実的な世界は、人間ではない彼等の存在によって、どこかやはり確実に揺らいでいる。

こんな不思議な世界は、作者の独特で意識的な描写(例えば「ぐにゃぐにゃ」「つやつや」「くるくる」「おんおん」などの擬態(声)語を繰り返し使ったり、年上の相手を主人公に「正太」と呼び捨てにさせたり「先祖」と単なる名詞で呼ばせたりする)によって、より印象的なものに仕立て上げられている。作者の日本語のつむぎ方は見事としかいいようがない。是非、この日本語マジックを味わってください。

好きなような嫌なような  (2006-05-30)
短編なので読みやすく、新幹線の中で読んでは眠り、夢うつつでいい気持ちでした。

読んでいるとき、突然、カフカの短編に似てるなあとおもったのですが、解説を読んでいると同じようなことが書いてありました。
頭の中がカフカに似ていらっしゃるのかなあ。

ただ、この人がエロを書いた場面に会うと、どうもある年齢の読者層にこびているような気がしてなんとなく違和感を感じてしまいます。
すこし表現が直接的過ぎるのが作者らしくないような気がします。

個人的には「蛇を踏む」のような淡々とした独特の雰囲気をかみしめるほうが好きです。

解説を拒むシュールな作品集  (2006-05-24)
この奇妙な連作に、どう感想をつけたらいいのか、今もわからない。巻末の解説はなるほど綺麗にまとめてあるけれど、「違う」と思う。そうじゃない。作品に触れていない。少し遠巻きに眺めて、作品のまわりを、ぐるぐるまわっているだけだ、と思う。しかし、私には言葉がみつからない。無垢で無感情な自然の営みそのもののように、メッセージ性のない、小賢しい解説を拒むような作品である。

解説中、合点がいった情報は、著者が内田百間(門構えに月)に私淑しているらしいこと、それから、百間が以前に童話の紹介文で「教訓はなんにも含まれておりません」「ただ読んだ通りに受け取って下さればよろしい」と書いていて、それがこの本にも当てはまるのではないか、ということ、の2点であった。ついでに言うなら、私にとっても百間は敬愛する作家の一人である。理科系の百間好き、という点で、私は著者と共通点を持つ。著者のエッセイを読んでも、嗜好の相似を感じることが多い。

民話・説話の語り口に通じる、個性的で簡潔な表現力を駆使して、異界を、あるいは異界と俗世との境界面を語る技量は、すでに著者の自家薬籠中のものにして、現代随一といえるのではないか。単に「不思議な物語」をいう水準を遙かに超える、優れた短編集である。


川上弘美が、始まる  (2005-09-30)
川上弘美は、現代においてきわめて作家らしい作家であると思われるが、そしてその本領とでもいうべき「業」というか「おそろしさ」は、目下『文学界』に連載中の『真鶴』に明らかであるが、その発端はこの『龍宮』、なかでも「北斎」一篇に胚胎していたように思われてならない。言語芸術ならではの「異形のものども」が繰り広げる、少ししかずれていないにもかかわらずリアリズムや日常感覚には決して還元されることのない、「人間」を相対化することで浮かび上がる物語世界は、逆説的に「人間」を鮮やかなまでに抉り出し・描き出してみせる。「北斎」は、川上弘美が男を書き、最後まで蛸なのか人間なのかわからない存在が、その存在に引きつけられる男を通じて、文字通り生々しいまでの「異形さ」でもって眼前に浮かんでくるようなのだ。まさに、作家川上弘美は、ここから新たな出発を遂げるだろう。