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愛する妻を見守る夫の物語
一番心に残ったのは主人公のセイの夫である。セイの心の動きを本人以上に全て敏感に感知していたのは夫ではなかっただろうか。石和の存在により、セイの心の中に立った小さな波に気づく。ただ、それを本人に問い詰めることはしない。ただ、見守る。大きくならないよう念じながら見守る。ただ、見守るだけ。東京での打合せもそこそこに予定より早く戻ってきてセイを見守る。
夫にとって一番の試練は、亡くなったしずかさんの遺品の整理にセイが向かったときである。そこには小学校を辞めて行方不明になった石和が来ているであろうことをなぜかセイは予感していた。夫も自分から離れていくセイを追って、故しずかさん宅に向かう…。しかし、セイは現れた夫にを残して、石和とある場所に向かう。そこがこの本のタイトルでもある“切羽”である。帰ってこないかもしれない妻を気をもみながら待つ夫の気持ち。“あのとき夫は、床にぺたりと座り込み、私たちが放り出していった作業を一人黙々と続けていたのだ”という切羽から夫のもとに帰ってきたセイの回顧シーンに現れている。戻ってきた妻が自分を呼ぶ声に、夫は振り返り、“ああ、戻ってきたとね”と妻に微笑するのである。 そして、最後に石和が島を出て行くのを、一人で見守り、そっと祝杯をあげる。 そんな愛する妻を見守る夫の物語は、淡くかすかだが、確かに張り巡らされた伏線から読み取ることができる。セイが切羽から引き返してくることができたのはこの夫ゆえなのだろうか。 |
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切羽へ 井上 荒野 新潮社 おすすめ度: 価格: ¥ 1,575 円 (税込み) |









